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「美咲さんになって」 (5)


作:赤目(REDEYE)




 ぺたんとなってしまった美咲の顔をみながら、亮太はなんだか恨めしくなってしまった。美咲は、亮太のそんな気持ちなど知りようもなく、無表情な瞳を虚空にむけている。その半びらきの唇の淡い口紅の色をみて、亮太は背中がぞくぞくした。やっぱり美咲さんはきれいな人だ……。
 五分あまりも跪いてそうしているうち、亮太は我にかえってあわてて立ちあがった。これでは自分の理性だっていつ飛んでしまうかわらかない。
「はぁ、もう。どうすればいいんだ……」
 ふと点けっぱなしだった大画面TVのほうをみた。そこにビデオカメラがつながっている。これだ、と亮太は思った。美咲さんだって、僕の身体に入ったときビデオを回していたんだ。自分の場合も回しておけばおあいこだし、なにより自己抑制が効くだろう。でも本当に大丈夫なんだろうか、女の人の身体を着るなんて――。
 ええい、迷っていても仕方ない。
 亮太は心を決めて、ビデオカメラを三脚にセットすると、美咲の身体のところに歩みよった。
「じゃあ、美咲さん、服を脱がせますからね? 恨まないでくださいよ」
 亮太は、ビデオにむかって語りかけると、美咲に向きなおってまず上半身を起こし、半袖のチュニックを脱がせた。普通に人間から服を脱がせるのと違い、身体の中身がないのでへにょへにょしてヘンな感じだ。しかも、当たり前だが、無表情な顔でされるがままになっている美咲を見て、亮太はまた身体の芯のあたりがゾクリとした。
 上半身がブラジャーだけになってしまった美咲の身体から、今度はパンツ(ズボン)を脱がせにかかる。ためらいながらも股間に手をやり、ボタンを外して、やはりくらげのような両脚からパンツを脱がせた。下半身もパンティだけになってしまった。
 そんな格好にされても、美咲はさっきと変わらぬ表情で虚空を見あげているだけであった。造り物ならともかく――いや、造り物だってこんなシチュエーションなら興奮してもおかしくないのに――これは潰れているとはいえ本物の女体なのだ。亮太はもう妖しい鼓動の高鳴りでめまいがしている。
 心を落ちつかせるために、ビデオにふたたび向きなおって話す。
「で、では、失礼して、これから美咲さんの身体を着たいと思います」
 亮太は美咲のセミヌードの身体を慎重にうつ伏せにすると、背中に裂け目ができていることを確認した。ある程度時間が経たないとそうならないらしいが、その時間がきたらしく、ついさっきまで何もなかった背中に裂け目がひろがっていく。
 この中の入ると、僕は美咲さんになってしまうんだ……美咲さんの身体を自由にできるんだ……美咲さんに何でもさせることができるんだな。そう思うと、頭の中が真っ白になるくらいの甘い快感がせり上がってきて亮太は呆然とした。下着姿のままの自分の股間が、また勃起していないかと心配になったが、不思議とそこは大きな反応はなかった。緑のドリンクの副作用かもしれない。だがその分、脳のほうは普通のエクスタシーを超えた痺れ狂うような悦楽ではち切れそうだった。
 罪悪感に悩みながらも、亮太はおそるおそる背中の裂け目に手をかけて、中をのぞいてみた。その中は真っ暗でなにもみえない。
 美咲の背中のブラのホックをはずす。
 そして美咲の脇のしたに腕をいれて抱えあげると、亮太は部屋のキャスター付き姿見のところへいき、いまの美咲の全身を写してみた。
 ちょうど中身のないウェットスーツのような状態で、亮太に抱えあげられている美咲の身体。といっても、色白の肌は肌理こまかくかがやくようで、実体をまとっていないとはいえほっそりとした肢体は女性的でたおやかだった。
 そして、中身のともなわない胸は、それでもきれいな形をしているのがひと目でわかり、乳首はあわい桃色をしていた。
 お辞儀をするような格好で、うつろな目を床へ向けている美咲の顔は、すこしひらき加減の唇が狂おしく扇情的にみえる。
「美咲さん、もう僕、頭が破裂しそうです……。美咲さんの身体を着ちゃったら、どうなるかわかりません」
 抱えている美咲にか、ビデオにかはわからないが、亮太は声をしぼりだすようにつぶやいた。もう喋っていないと、本当に今すぐ理性が蒸発しそうであった。
 それでも亮太は、美咲をもとにもどす方法はそれしかないと分かっていたから、美咲の背中をひらいて、やはりウェットスーツを着る要領で、おそるおそる自分の両足をそこからつっこんでいった。
 その中は、人間の体温が感じられるような暖かさであった。
 ズボンを身体に合わせるように、美咲の脚をまといおえると、きゅっきゅっと脚のあちこちをひっぱり、フィットさせる。
 足の指を動かしてみると、ちゃんと美咲の足の指も動いた。感覚も普通にあるようだ。
 今度はセーターの袖に腕をとおすように、美咲の腕に自分の腕を差しこんでいく。いちばん奥まで入れると、ちょうど手袋を手にはめるように、美咲の細くてながい指に亮太の指が入りこんだ。亮太が指をぴらぴらと動かすと、その白い指が思い通りに動く。
 両手を入れてしまうと、自動的に上半身もほぼ美咲のなかへ埋もれてしまい、あとは頭だけになった。いま美咲の後頭部が、亮太の顔の前にあるような形だ。鏡をみると、ここまでされても全く表情のない美咲の虚ろな顔があった。
 さっきビデオの中で美咲がためらっていたのが理解できた。この先に進めば本当に全身が他人の中に埋まってしまう。
 亮太は、息がつまるような興奮をおぼえながら、今は自分のものになった美咲の細くて長い指で、美咲の頭を抱えるようにすると、首をすぼめて背中の裂け目から頭をつっこんでいった。
 中は真っ暗でなにも見えなかったが、いきなり蛍光灯のスイッチが入ったように光が明滅すると、目の前に視界がひらけていた。
 眼前には鏡があり、生気を取り戻した美咲の顔がある。美咲はちょっと驚いたように目をパチパチした。
「わっ、み、美咲さん……」
 亮太が喋ったとおりに鏡の中の美咲が唇をうごかし、喋る。
「あっ、声も……」
 思わず手を口元へやると、やはり美咲がそのとおりにした。
 それで、完全に美咲の身体を“着用”しおわったのだと亮太も理解した。
 背中の裂け目がひとりでに癒着していく感覚がした。

==続く==


●かなりねちっこく描写してみました(笑)。いかがでしたでしょうか。さて次回はどうなりますか。(作者)


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