目次に戻る

「美咲さんになって」 (4)


作:赤目(REDEYE)




 あれはどこまでが現実のことだったんだろうか。亮太は何度考えてもわからなくなってしまうのだ。
 あの日、亮太はフラフラになりながらもMTBで自宅に帰りつき、そのあと丸一日半も自室で眠りつづけた。家族が心配して医者を呼ぼうかと相談している最中、ようやく目が覚めた。あのドリンク剤の副作用がまだ残っているのか、まだ頭がぼうっとした。
 ネットゲームにアクセスしてみると、ガンダレフの姿はなかったが、しばらく戦闘エリアをウロウロしていると美咲もアクセスしてきた。
「美咲さん、あの日のことですが……」
「うん…」
 チャットで呼びかけると、美咲もどこか煮えきらない様子で、あたりさわりのない返事しか返ってこなかった。どうもその話題を避けている感じがする――それとも、気のせいだろうか。
 まさかね――やっぱりドリンク剤の副作用で朦朧として幻覚でも見てしまったに違いない。僕の様子がおかしかったから、わざと触れないようにしているのではないだろうか。


 あの日、美咲のマンションで、亮太は間違って緑のドリンク剤を飲んだあと、身体がぺったんこになるような奇妙な感覚を味わいつつ気を失った。
 目が覚めたとき、最初に目に入ったのは美咲のとても心配そうな顔であった。
「亮太くん、大丈夫だった? 身体にどこもおかしなところはない? あたしが誰かわかるよね?」
 美咲さんはなにを言ってるんだろう?
 気が付くとなぜか下着だけになっており、ソファーに寝かされているところだった。自分はいつの間にコスプレ衣装を脱いだのか? 気を失う前の状態を思いだして、亮太は恥ずかしくなった。なぜか股間の暴発寸前の状態は収まっていたが、代わりに奇妙にも快感の余韻があった。
「あ…」
 ボーゼンとして思わず股間に手をやる。まさか美咲さんの前でやらかしてしまったなんてことは……。
 その様子をみていた美咲が、意外な行動に出た。
「ソラッセ、ごめん!」
 叫ぶと、じゅうたんの上に座りこんだのである。頭の上で手を合わせ、目をこんな→「><」にして米つきバッタのように上半身をぺこぺこやる。つまり土下座だ。
 亮太は状況がよくわからずそれを見ているしかなかった。
「え…? これってどういう…」
「本当にごめん、許して。あ、あたしソラッセになって、オ、オナニーしちゃった。すごく気持ちよかったの。だからついやっちゃった」
「へ?」
 亮太は上半身をおこした。
「信じられないかもしれないんけど、いえ、信じないと思うけど、ソラッセが飲んだのは青じゃなくて緑のドリンクだったの。それでソラッセの身体がぺったんこになっちゃって、パニックになっていたら、どこかに足の小指をぶつけちゃって、それで痛くて座りこんだ拍子に、説明書が目に入ったのよ。緑のドリンクを飲むと身体が抜け殻のようになって……」
「ちょ、ちょっと美咲さん、何をいってるんです?」
 亮太の言葉を聞くと美咲は困った顔になった。
「そうよね、こんな話信じろっていうほうがどうかしてる……あっ、そうだ!」
 美咲は立ち上がると、三脚にセットしたままだったビデオカメラに駆けよった。
「これに全部映ってるよ……回しっぱなしだったから」
 美咲はビデオをリビングの大画面TVにつなぐと、自動チャプター画面からちょうどいい箇所を選んで再生ボタンを押した。
「ホラ、見て。ソラッセ」
 画面には、ちょうど美少女コスプレした亮太が赤のドリンク剤を飲んだところからの映像が流れた。
 その恐るべき強精効果に身もだえする亮太。
『う…う…う』
 苦しげな声がリビングに響く。
 そして画面内の美咲のアドバイスで緑のドリンクを飲む自分。
 その途端、信じれないことが映像のなかで起こった。
 イスに座った自分の身体が、まるで空気が抜けるようにペッタンコになっていくではないか。
「わっ」
 思わず亮太は中腰になった。
「で、でしょ? こんなこと起こるなんてねえ…」
 画面を見ている美咲もあらためて目を見張っている。
 厚手のウエットスーツくらいの厚みしかなくなってしまった亮太を見て、画面のなかの美咲が悲鳴をあげた。
『ひいっ、ソラッセ、ソラッセ、どうしたの空気抜けちゃった、どうしたのどうしたの何かヘコむことあったの』 
 美咲は踊っていた。いや、パニックのあまりどうしていいかわからず、地団駄踏んできゃあきゃあ言っているのだが、それが阿波踊りをおどっているようにみえるのだ。
 そのうち先程の説明どおり、画面内の美咲は足の小指をテーブルの角にぶつけると、『あ、痛った〜っ』と叫んで座りこんだ。そしてその拍子に床に落ちていた説明書の文言に気づく。
『ええっ』
 それを読んで驚きの声をあげる美咲。
 何度もぺったんこになった亮太と説明書を見比べる美咲。その目に疑わしげな色が浮かんだり、首をひねったりしていたが、そろそろとソファの亮太のところへ近づいてゆき、その空気の抜けたような身体をおそるおそる触ってみたり、掌で押して厚みと弾力を確かめたりした。
『信じられない……本当に緑のドリンクで着ぐるみみたくなっちゃった』
 一連の映像を見ていた亮太は、驚きのあまり息をするのさえ忘れていたのだが、ここにきてようやく言葉を絞りだした。
「な…なんですかこれは? まさかあのドリンク剤の効果でこんなになってしまったと?」
「そうなのよ。説明書には、緑のドリンクはあの長ったらしい名のイグアナの脱皮ホルモンを抽出してナントカしてあるって。それを飲むと、身体がぺったんこになってしまうの。しかもそれを元へ戻すにはね……」
 美咲はまた困った顔になって、手を合わせて亮太の方へヘコヘコした。
 亮太がボーゼンと美咲をみていると、画面のなかの美咲はおそるおそるといった感じで、仰向けにソファに横たわっている亮太の平たい身体を、両脇に腕をいれような格好で持ち上げた。亜麻色の髪のかつらが落ちる。
 そして、今度はソファにうつぶせに寝かす。そこから美咲は、亮太のコスプレ衣装の白のドレス風ワンピースを脱がせはじめた。男物の下着姿になってしまう亮太。そして、美咲は亮太のシャツをめくりあげた。
 裸の亮太の背中には、ちょうどセミの抜け殻にあるようなような裂け目があったのだ。
『はぁ〜説明書の通りになってるよ…』
 画面のなかの美咲はなんともいえない混乱した表情になった。
『亮太くん、亮太くん、もしもーし? このまま返事しないならあたしが中に入るよう? ――本当にこんなことしていいのかしら』
「へ……あっ!」
 画面を見ていた亮太は目を覆った。なんとその中の美咲は服を脱いで下着だけになってしまったからだ。だがまた赤くなる暇もあらばこそ、驚くべきことがおこった。
『……ええい、ままよ!』
 なんと画面の中の美咲は、裂けた亮太の背中に脚を入れはじめたのである。
「うわああ」
 それを見ていた亮太はさすがに飛び上がった。
「み、美咲さーん、なにするんですかー!」
「だからごめんソラッセ! 説明書に、あのぺったんこ状態をもどすには、誰かが中に入って生命エネルギーを分け与え全身に浸透させなければならないと書いてあったんだよう」
「そ、そんなバカな…」
 そうこうするうちにも映像の美咲は亮太のなかに下半身を入れ終わっている。
そしてウェットスーツを着る要領で、右腕・左腕と通す。そして最後は頭である。
姿見を見ながら、さすがにちょっと躊躇していた美咲も、しばらくすると決心したらしく、頭も亮太の中へもぐりこませた。
 すると背中の裂け目がひとりでにくっつき、同時に美咲に被られた亮太の顔が生気をとりもどした。
『あ、あー。ひゃあ、声もソラッセになって……あっ、な、なにこの感じっ』
 画面のなかの亮太(In美咲)は、苦悶の表情になって股間を押さえた。まだ赤のドリンクの効果が続いているのだ。
『あっ、あっ……こ、これが男の子のエレクトの感じなのね…た、たまんないよう』
 そういうと、最初はブリーフの上から、次はブリーフを下げて直接、グライドしはじめたのである。
『あっ、あ、あっ、すんごい、は、破裂しちゃうぅ…』
 しばらくそうしているうち、あやうく寸前になってティッシュを取る。
『はあんんっ! んっ、ん…』
 とうとう達した。
 亮太は、美咲によって引き起こされたこの映像のなかの自分の痴態を、口をあんぐり開けて見ているしかなかった。開いた口がふさがらない、あきれて物も言えないとはこのことだ。いや、亮太が凝固したのは、そのためだけではない。これは自分の尊厳を犯されたも同然ではないのか……。
 実は一回だけでは終わらなかった。あの薬の効果はすさまじく、その後四回にわたって快楽に負けた美咲が亮太の身体でオナニーしたのである。
 最後のほうは、もう亮太は画面を見ていることができず、うつむいてしまった。
 そのあと、ようやく生命エネルギーの浸透が終わったらしく、身体に異変を感じた美咲が亮太のなかから出た。そして亮太の身体がもと通りになり、ビデオが終わったというわけである。
「亮太くん、本当にごめんっ! あたし許されないことをしたとわかってます」
「……」
 美咲の呼びかけにもどう答えていいかわからない亮太。
「言い訳すると、本当に身体を着て亮太くんになってしまい混乱したのと、赤のドリンクの効果で、頭が真っ白になってしまったの。といって、あれは絶対やっちゃダメでした。――だからね」
 美咲はイグアナZの箱から緑のビンを取りだすと、キャップを外した。
「こうします!」
 叫ぶなり、一気飲みをしたのである。
「ちょ、ちょっと、美咲さん!」
 さすがに驚いた亮太が止めようとしたが遅かった。
「交換条件ってわけじゃないけど、あたしの身体、自由にしてくれていいから……。ね?」
 次第に空気が抜けていくようにぺったんこになっていく美咲は、亮太の目をみながら懇願ともとれるような色をその瞳にうかべながら言った。三十秒もしないうちに、ソファーに寝転がった美咲の身体はさっき映像でみた自分のようにつぶれて平たくなってしまった。
 呆然として立ち尽くす亮太。
「な…。え…? でもこれ、どうしろと…」
 美咲はチェニックとパンツルックに着替えており、そうなってしまった美咲は、ひどくエロチックでタブーな存在に思えた。人だったものが物体になってしまったというフェティッシュな感覚。もともと細くててきれいな人なのに、これじゃ空気の抜けた超リアルなダッチワイフじゃないか。人妻だけに。――わあああ僕の馬鹿ばか、何を考えているんだ。
 つぶれたといっても、目玉はちゃんとあるし、口の中には歯もあるようだ。本当に人間の肉体がそのまま着ぐるみになってしまうらしい。それで余計に倒錯したエロスが感じられるのだろう。
 亮太は頭を抱えた。説明書によると、本当に一度誰かが着ないと元には戻らないらしい。それは今から美咲の服を脱がせて、亮太がその肉体をまとわなければならないことを意味していた。

==続く==

●次なる亮太の行動は? 待て次回!…ってオイw 面目ありません、時間切れでした、次こそは……(作者)


目次に戻る

●感想フォーム
 面白い  普通  つまらない

コメント (一言頂けると作者の励みになります)

名前 メールアドレス

inserted by FC2 system