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「美咲さんになって」(13)


作:赤目(REDEYE)




 読者の皆様へ。かなり間が空いてしまいました。ということで前回までのあらすじ。世界コスプレコンテストに出演した亮太と美咲だったが、本選直前で極度の緊張からパニックになった美咲は、魔法のドリンクを飲んで逃走モードに。皮になってしまった美咲を仕方なく着こんだ亮太は、腹立ち紛れにオナニーして女の絶頂感を知る。そのまま美咲のフリをして決勝の演技をやりぬいた亮太は、ドイツチームと共にみごと優勝したのだった。



 舞台の袖に引っこんだ亮太――まだ美咲の生皮を被ったままで、さらにダビィスタリオンのレレの衣装を着ているという、いわば二重コスプレ状態――が、ようやくほっと小さく息を吐いたところへ、つかつかと歩み寄ってくる人影があった。
「グリュックヴンシェ! ミサキさん、おめでとうを言わせて下さい。あそこまでやるなんて、完全に予想外でした」
 そう言って手を差し出してきた碧い目のアスラは、むろんドイツチームのイレーネであった。感心するほどまったく訛りのない日本語だ。
「うん、ありがとう。あなたたちも凄かったわよ。……まあ一人でやり切ったあたしには敵わないけどね、ガハハ」
 手を握り返しながら、亮太は美咲の口を動かして本人の声でそう言った。美咲ならきっとこう返すであろうという思いつきである。
「んもう……」
 イレーネはちょっと咎めるようなフクザツな流し目の笑みを浮かべながら、こちらを見つめてくる。
「ミサキさん、結婚していたなんて、早く教えて欲しかったですよ。道理でふてぶて……もとい、落ち着いているわけだわ、ま、見た目はそんな風にぜんぜん思えませんけど?」
「んー、なんか聞こえたけど、大目にみとく。よく言われわよ。制服が似合いそうってね」
「じゃあ、私と亮太さんのあいだの障害にはなりませんね? すてきな旦那様がいらっしゃるのでしょうから」
 虚を突かれて亮太はぐっとつまった。
「そ、それは……」
(ヤバイ、考えてなかった)
 すこし罪悪感をおぼえつつ、改めて美咲の皮の下からこっそりとイレーネを品定めすると、ほぼ美少女マンガに出てくる主人公級キャラそのままである。可憐さのなかにほんのり上品な色気も漂わせ、まるでそこだけスポットライトが当たっているかのような華やかさのあるひとだ。
「?」
 黙りこんでしまった「美咲」の様子に、小首を傾げて不思議そうな顔のイレーネ。
「――ん、ううん、そうね、い、いいんじゃないかな……じゃ、ない!」
 いかんいかん、ヨクボーに負けてしまっては。今は雨音美咲という女性のはずでしょ、僕は。亮太はあわてて言い直した。
「ダ、ダメダメ。亮太はあたしのものなんだから! あいつもあたしにゾッコンよ、優しいお姉さんのあたしにね! ガーッハッハッハ」
 胸を反り返らせて無理やり高笑いする「美咲」だったが、イレーネは不満そうだった。
「あれー、そうかな。亮太くんはそんな風に思ってないような気がします。――あっ、そうそう!」
 いきなり超接近したイレーネにぐっと両肩をつかまれた亮太は、美咲の顔の下でどぎまぎしてしまう。
「亮太くん、亮太くんの具合はどうなんですか? 本番に出られなくなったって聞いて、とてもショックを受けたんです」
「あ、亮太、亮太の具合ね……う、うん」
 イレーネにすごい迫力で眼前まで迫られて、亮太はなぜか半笑い状態で目をそらした。
「悪いんですか? ミサキさん、教えて下さい」
「い、いや、大したことないわよ、きっと。しばらく寝てれば直るって言ってたから。ほら、あの子あがり症でね、あたし以上の隠れあがり症、はは……」
「むー? なにか怪しいです、ミサキさん。私に隠していることありませんか?」
「な、ないわよ。何言っちゃってんの」
「じゃあ、今から楽屋へいっしょに行っていいですね? お見舞いしたいんです」
「え、いや、それは――」
 亮太が本格的に答えに窮していると、イレーネの背後から豪快な笑い声がきこえた。
「カンパーイ、オイチーイ」
「ビッテ! プロストゥ」
 イレーネは慌てて振り返って叫んだ。
「あっ、あんたたち手下1と手下2! あれほど夜までは飲むなって言ったのに。このオロカモノ」
 イレーネと一緒に出演した仲間の男性二人が、ロボのコスプレのまま頭の部分だけはずしてロング缶のビールを呷っていた。ロボの衣装のミサイルが入っていた部分にもしっかりビール缶が詰めこまれている。すでに一本目ではないらしく結構ゴキゲンな状態だ。
「あなたたちはとてもとても酒癖が悪いんだから! それをお渡しなさい!」
「イッヒ、ニホンゴ、ワカリマセーン」
「エントゥシュルデイグング!」
 追いかけっこを始めた三人を尻目に、これ幸いとこっそりそこを離れる亮太であった。小走りに楽屋へ向かう。そういえばなんだか身体がムズムズしてきた。そろそろ脱皮の時間らしい。いくらなんでもよく今までもったものだ。美咲が根拠もなくドリンク二本飲みしたのが効いたとしか思えない。
 亮太は楽屋部屋に入ると、ドアにカギをかけて、ようやく胸を撫で下ろした。
 等身大の鏡の前へいき、鏡に映ったレレコスプレ姿の美咲を一瞥すると、衣装を脱ぎはじめた。
「ふう、美咲さんの身体ともこれでお別れか」
 こうしてみると、ちょっと惜しいような気もする。もし美咲本人が決勝の演技をしていたら、優勝できたかどうか未知数なのだ。亮太が中に入ったお陰で、美咲の女としての魅力を存分に引き出せたともいえるのだ。
「僕が美咲さんの身体を一番うまく使えるんだ……なんてね。本人に聞かれたらコロサレルな。『そうよねー、勝手にオナニーまでちゃったし。あとでどうしてやろうかしら?』」
 最後のところを美咲の口調を真似ていいながら、亮太はちょっと青くなった。
「……やっばい、本当に言われそうだよ」
 ブラジャーもパンティも脱いで全裸になると、最後に美咲のほっそりとしたヌードを一瞥して、ちょうど背中が裂け始めた感触にまかせて、身体を前かがみにすぼめた。こうすると背中の方にテンションがかかる。こうして裂け目を大きくしてから、美咲の頭部を抱えて、ずるっと自分の頭部を出す。あとは左手で右手の先をつかんで、ほっそりとした腕から自分の腕を抜く。左手も同じようにして、これで上半身を抜き出した。あとはオーバーオールを脱ぐ要領で、下半身を慎重に脱いでいく。
 ようやく美咲の皮を脱ぎきると、亮太はそれを慎重に抱えて、長テーブルの上にうつ伏せに横たえた。すでにだんだん厚みが増してきているし、背中の裂け目も癒着していく。もうすぐ美咲は復活するだろう。
 そっと毛布をかけて、あらためて大きく安堵する亮太であった。
 その時、楽屋部屋のとびらを叩く音がした。
「ミサキさん、イレーネです! 開けてもよろしいでしょうか?」
 表から声がしている。まずい、もう来たのか。
 亮太が自分も全裸だったのを思い出し、そそくさとパンツを履きはじめたときである。
 信じられない音を聞いたのだ。
 最初は「ガチャガチャ」と鍵のかかっている扉を開けようとしているだけであった。ところがすぐそれは「カシャ。ガシン」となぜか鍵が開いてしまう音がしたのだ。
「――ああ良かった、この鍵あたしの楽屋と共通だ!」
 パンツ履きかけで中腰のままの亮太が「えっ」となってそちらを見ると、ドアが勢いよく開いたのであった。
「……」
「……」
 立っていたのはもちろんイレーネである。
 二人は凝固したまま見つめあった。
 一秒、二秒……。
 時間はまるで止まっているかのようだが、目を凝らせば変化はある。静止画像の一部だけが変化していく間違い探しゲームのようであった。
 イレーネの白い顔が、まるでアナログ温度計の目盛りが急上昇するように、下から紅エリアがぐぐぐっとあがってきて、すぐそれは頭の先まで達し――見事なくらい真っ赤に染まった。二〜三度酸欠にでもなったかのように、パクパクと口を開け閉めしたあと、頭のてっぺんから声をだした。
「き、着替え中失礼しましたっ!」
 なぜか力が入らない様子で、ゆっくり扉を閉める。
 亮太がまだ呆然として凍ったまま扉を見つめていると、すぐまた扉が開いた。
「あ、わ、わ、わた、わたし、わたしも脱ぎますっ!」
「? うえっ、ちょ、ちょっ」
 亮太が中腰のまま変な声をあげてしまったのは、イレーネが完全にテンパった表情で楽屋に突入してきて、そのままコスプレ衣装を脱ぎはじめたからだ。ブルネットのかつらをとると、ボリュームのある金髪がこばれる。
「ダメですよ、イレーネさん! なにやってんですか」
 といいつつパンツ履きかけを忘れたままそちらへ行こうした亮太は、派手にコケた。
「イ、イテテ……」
 その間にもイレーネは素早く衣装を脱いで、すでにアンダーウェア代わりのTシャツ短パン姿になっている。
 ためらいなくTシャツを脱いでまぶしいような豊満なブラジャー姿になったイレーネに、亮太は一瞬見とれた。
(やっぱガイジンさんはスタイルいいなあ……)
 ――じゃ、ない! 床に転がったまま亮太は己のボンノーを呪った。
「ダメですって、イレーネさん! 僕は見られても構いませんから」
 なんとか起き上がってイレーネのところに行った亮太だが、言葉とは裏腹に自分がまだ全裸だったことを思い出し、局部を隠すかイレーネを力づくで止めるか一瞬逡巡した。動作が決まらず変な盆踊り状態になってしまっている。一方イレーネも目がぐるぐる「◎」状態になっており、そのスキにブラジャーを脱いでしまい、次は短パンにかかっている。
「わああー」
 ブラからこぼれた推定D〜Eカップの美乳の神秘的ともいえる1/fのたわわな揺れに、亮太も真っ赤になって目をおおったり自分の股間をおおったりと忙しい。
 そこへ。
 運悪く開いたままの扉から、ドイツ人1および2が入ってきた。
「ヤー、……」
「ワオ……」
「オー、ヤーパンのハダカマツリね!」
「オクトーバーフェスティバル!」
 違うって、などと亮太がツッコむ暇もなく、こちらもすでに急ピッチのビールでぐてんぐてん状態の二人は、揃ってコスプレ衣装を脱ぎ始めた。いや、脱ぐといよりロボ衣装をもう破壊しながら剥ぎ取っている。
「いえいえいえ! ちょ、ちょっとお二人とも脱がないで! 脱がないで!」
 亮太が二人に意識をむけている間に、イレーネはパンティも脱いでしまっていた。
「イレイレイレイレーネさん、あっ、そのっ」
「これでアイコでしょ! 見て亮太さん! わたしのすべてをっ」
 ばっ、と両手を開いて究極の自己主張をするイレーネ。
 さらにそこへ。
「うるさいわねえ、なんの騒ぎよ……」
 美咲が毛布を跳ね除けて起き上がってきた。
「ぎゃああああ! なにコレなにコレ! なんでみんな裸なの?」
 あなたもハダカでしょうが、などと美咲のボケをレシーブする余裕はもう亮太にはなく、もう何がなんだかわからずジタバタと阿波踊りをおどっているだけであった。
 加えて。
 完全にテンパっているイレーネが、「わたしはてんぷらゲイシャ!」などとわけのわからないことを叫びつつ、亮太に抱きついてきた。
「ひゃああああ」
「あっ、こらそこのデカ乳ドイツ女! リョータから離れろ、それはあたしのもんだっ」
 美咲が逆上して飛び掛ってきて、亮太とイレーネの間に割っては入ろうとするものだから、五人全裸で入り乱れての押しくら饅頭になってしまった。
 か、カオスだ……亮太は気を失う前にうっすらと思ったことを覚えている。

 結局この騒ぎは大会事務局の知るところとなり、全員大目玉を食らうことになったのであった。

==続く==


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