目次に戻る

「美咲さんになって」(12)


作:赤目(REDEYE)




 照明がおとされたステージの上に、各国チームが勢ぞろいしている。どの顔にも緊張と期待感がみえる。
 ドラムロールが鳴り響き、それが止むと司会者の声が聞こえた。
「それでは、優勝チームを発表します。――今年度の優勝は……ドイツチーム!」
 スポットライトがイレーネたちに当たり、歓声と抱き合って喜ぶ姿がうかびあがった。会場にも明かりが点り、大歓声とわれんばかりの拍手に包まれた。


 亮太はレレのコスチュームを着こむと、控え室の鏡の前でちょっとポーズをとってみた。普段から女の子キャラのコスは慣れているが、今回はコスチュームだけでなく、美咲の身体も着込んでいるところが違う。いってみれば「女体装」「女体コスプレ」の趣きだ。そのため、いかに美咲の女性としての魅力をひきだし、レレのコスに似合う演技をさせるか、ということが要求されるわけだ。
 だが、もう美咲の姿でオナニーにまでしてしまった亮太に迷いはない。いくら女性の快感を味わったといっても、それで「女性」性のすべてがわかったわけでないことくらい、中学生の亮太にもわかる。だが、とりあえずわかった思い込んででもやらねば、勝ち目はないだろう。
(ん、調子いい。さっきより美咲さん艶っぽくなってるし)
 美咲の顔でひどくセクシーな表情をして、かわいい投げキッスをひとつ決めると、亮太はステージに向かった。ちょっとした小道具もいっしょだ。

 コスプレコンテストの最後が亮太チームの出番。
 そのステージに、亮太は踏みいれていった。鳴り響く拍手。
 前もって司会者が、共演の亮太が体調不良になり、美咲だけで演技をする件、そして簡単な出し物の内容紹介をしている。
 ダヴィスタリヲン・ロボのパイロットスーツ姿のレレ。だがなぜかパステルカラーの羽織をその上にはおり、白い足袋を履いている。髪にはかわいいかんざし、そして手には三味線。そのまま舞台中央におかれた小さな木製の机の前に座りこんだ。
 拍手がやむと、おもむろにシャクを手にもち、会場をぐるりとねめつけるように見渡すと、レレは歌うように言葉を紡ぎはじめた。
「『講談・ダヴィスタリヲン』の一席、よろしくお聞きとどけくださいまし」
 机をバンババンと拍子をつけてシャクで叩き、渋い声でフシをつけて「物語」を語りはじめた。
 亮太チームの決勝の演技はアニメ講談だったのだ。『講談ダヴィスタリヲン』、それは物語のヒロインの一人レレと、その父であり夫でもあるケンドーの間の道ならぬ恋を、切々と詠いあげる一大作品であった。
 会場から「おおー」と感嘆の声がもれる。
 表情豊かにアツく語られる講談劇のなかで、レレの台詞になると突然いつものレレになり、虚無的な表情で無機質にボソッとつぶやいたりした。それだけでなくケンドー、ミサコなどの主要キャラは全部モノマネがはいり、その度に会場に笑いがひろがった。
 特にシンジン君のセリフは、本来素の亮太が担当するパートであったが、この箇所になるとわざわざササッと立ち上がって机の傍らに立ち、なりきりシンジン君でボケ発言をとぼけ表情でかますものだから、会場が沸きに沸いた。ほぼレレとシンジンの二重人格に見えるらしい。もちろん美咲ボディを亮太が着こんでいるのだから当然だが、観客は知りようがない。それだけ亮太の演じわけは見事でもあった。
 物語が盛り上がってくると、本来亮太の担当であった三味線の演奏パートも入れたりしつつ、たたみかけるようにクライマックスへすすむ。無表情だったレレが、とうとう感情をあらわにしてケンドーを誘惑しようとするシーンは圧巻で、観客は息をのんだ。半分生物機械のような少女に苛烈な女の情念が宿っているところをみたからであった。
「これでおわりです」
 亮太が一礼し、美咲の顔で照れたように小首を傾げてかわいらしく言うと、観客からまさに怒涛のような拍手がきた。立ち上がっている人もかなりいる。なかなか拍手は鳴り止まない。
 亮太はかなりの手応えを感じた。美咲さんの皮をかぶってまで出場した甲斐があったというものだ。ちょっと目頭が熱くなった。

 そして、優勝チームの発表セレモニーがやってきた。
 舞台にあがると、観客も息をこらしたようにこちらをみているのがわかる。どのチームが優勝するか期待とわくわく感でいっぱいなのだ。
 舞台上で、イレーネと目があった。イレーネはするどい目でこちらを見つめている。亮太はいまは美咲の顔に微笑みをうかべて見つめかえした。
 そして――
「優勝はドイツチーム!」
 大歓声。亮太はふっと力がぬけそうになったが、司会者の言葉にはつづきがあった。
「そしてもうひと組、日本チーム!」
 さらなる大歓声。
 亮太も思わず「やったあ!」と叫んで飛び上がった。
 収まらない歓声のなかで、司会者が説明している。
「今回はドイツチーム、日本チームの演技がすばらしく、審査員の間で最後まで意見がまとまりませんでした。スポンサーの協賛企業の了解もでましたので、これは優勝を二チームにしてしまえと、特別の計らいになりました。おめでとう、両チームのみなさん」
 亮太は美咲になりすましているのも忘れて、ぴょんぴょん跳びはねていたが、チームと抱き合っていたイレーネがこちらを見てクスリとしたのをみて、さすがに恥ずかしくなってやめた。イレーネもいまは屈託なく、こちらに誇らしげな微笑みをむけてくる。

 そして優勝トロフィーと副賞の贈呈式。司会者が亮太になにかひとこと、とマイクを向けてくる。亮太はコンテンストに出場したそもそもの目的を忘れていなかった。そこでカメラが近くまで寄ってきたのを見計らって、美咲になりきってそちらに叫んだのである。
「中東にいるあたしのバカ夫! この中継を見ているのはわかってんのよっ。いつまで出張にカコつけて遊んでんの! あんまり放っておくと、あたしも男を作るからね!(怒)」
 これでいいはずだ。美咲さん本人から、何度も優勝したらこう叫ぶと亮太は聞かされたのだから。
「なんと、美咲さんは既婚者でしたか? いやはや信じれませんね」
 司会者の声に、会場からもどよめきがひろがった。それも笑い声と歓声にのまれていく。

==続く==


目次に戻る

●感想フォーム
 面白い  普通  つまらない

コメント (一言頂けると作者の励みになります)

名前 メールアドレス

inserted by FC2 system