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「美咲さんになって」(11)


作:赤目(REDEYE)




 これで亮太の身体は完全に「皮」に覆われ、美咲への変身は完了した。
 だが鏡の中の美咲は、困ったような悩ましげな表情をしている。
(こんな美咲さんの顔をみるのは初めてだな……。やっぱり基本エロカワな人なんだ、ふだんバカなことばっか言ってるけど。しかも、いま全裸だしな」
 そうなのだ。フィギュアと見間違うようなスレンダーで工芸品のように流麗なヌードのまま、鏡のなかの美咲はこちらを見つめている。
「ようこそあたしの身体へ、なんちゃってね」
 微笑をうかべ、小首を傾げて美咲はいった。
「そっかー、でもソラッセにもまだこんな勇気があったんだ。てっきり今回は逃げると思ったら、ちゃんとあたしに化けてくれたんだね。感謝してるよ?」
 人指し指を顎のあたりにつんつんさせつつ、からかうように上目遣いで。
 むろん全部亮太がいわせているのだが、普段の美咲のことを知り尽くしているだけに、その口調も本人そのものだった。
 だが、まだどこか本人になりきれていない気がするのだが、亮太にはその原因はわからなかった。
 そのとき。
 突然ピルルルルルと電話が鳴ったのだ。楽屋に備え付けられている内線の電話だ。
 早速試練の時がやってきた。ちゃんと美咲のフリができるだろうか?
 亮太は緊張しつつ、受話器をとった。
「もしもし」
 と美咲の口を動かして言った。
『あ、日本代表の部屋ですね』
「はい、代表の雨根ですが」
『実は申し訳ないのですが、機材トラブルが起きてしまいましてねえ。ご出演の時間が20〜30分ほど遅れそうなのです。楽屋で待機をお願いできますか。準備ができましたらまたご連絡しますので』
「ええ、わかりました。それと、ちょうど良かったのでお話しますが、こちらもトラブルが起きてしまいました」
『と、いいますと?』
「実はもう一人の出演者の亮太くんが、貧血を起こしてしまいまして。いま楽屋で薬を飲んで安静にしていますが、出演は無理かもしれません」
『それはそれは……。どうされますか? 棄権されますか?』
「いえ、なんとか出し物をアドリブで変更して、あたし一人で演技したいと思います」
『わかりました。大変でしょうが頑張ってください、応援しています。……実はわたしもすっかりレレちゃんコスの雨根さんのファンになっちゃって』
「ホント? ありがとう。一所懸命やるから、よろしくおねがいしますね」
 亮太は美咲の声で精一杯感じよくいうと、電話をきって胸をなでおろした。これでなんとか言い訳になっただろう。もし誰か楽屋にきたら、亮太は医者へ行ったといえばいい。

 電話ではなんとか美咲のフリをソツなくこなせたが、実際に観客のまえへ出たらどうだろう。美咲になりすましたうえ、その美咲がレレの演技をしているところを演じなければならないのだ。
 姿見のまえで、アンニュイな感じの真面目な表情をした美咲をみながら、亮太は考えた。
「なにが足りないのか本当はわかってるんじゃない?」
 鏡のなかの美咲は、すべてを見透かすような流し目で亮太をみつめた。
「ソラッセはさあ、始終あたしといっしょにいて、癖とか喋り方とか思考様式とか、あたしのことは大抵知ってるけど、たったひとつ知らないことがあるよね?」
 美咲は、嫣然と髪をかきあげた。
(わかりません、美咲さん)
「あたしの女の部分よ――お・ん・な」
 ふふ、と笑いをもらす。
「本当の女を知らなきゃ、いくらうわべだけ真似してもいい演技はできないと思うんだけどなー? いまのままじゃ、ドイツチームには勝てないわね。――どうすればいいかは、わかるでしょ?」
 ちょっと挑発するような瞳の妖しい光。それを覗きこむようにして――。
「この中からきみが覗いてるのはわかってんだからぁ。……ねえ、あたし以前言ったよね? 年頃の男の子に身体を貸したのに、なにもされないのって傷つくんだけどなあ」
(はぁ、もう美咲さんがそこまで言うなら……)
 亮太は、腰にあてていた美咲の手を、すっと胸のところへ持っていく。マニュキュアできれいに手入れしたその手で、小さめのバストを包みこむようにして、愛撫しはじめた。
「んっ、んっ、うん、……はぁ、うまいじゃない、んっ」
 鏡のなかの美咲は、亮太が思ったとおりに身体を動かし、思ったとおりの声をだし、そ思ったとおり表情を変えた。
 柔らかなその感触もそうだが、本人も知らないうちに美咲にこんなことをさせているんだ、という事実が、亮太をより興奮させた。
 下半身に鈍く痺れるような違和感がひろがる。
「も、もう、バカ亮太ぁ……あぅ、あっ……あたしにえっちなことばっか言わせてぇ……そうよ、この下半身のはぁ……はぅん、うぅん……濡れて、きたんだよ、あぅ」
 美咲の頬は次第に朱にそまり、その瞳はうるんできた。
 自然と手が下半身の秘部へのびる。
 確かに蜜でしめったそこを、軽く押さえて指でそっと撫でるだけで、電撃のように痺れる快感がお腹の中まで広がるように感じた。
「あっ、あ」
 思わずのけぞってしまう。美咲を擬態する演技も一瞬飛んでしまいそうになるほどであった。
 本当にこのまま続けてよいのだろうか、と一瞬亮太も思った。罪悪感と快楽で頭がおかしくなってしまんじゃないか。
「あっあっ……い、いまさら、何? こんなこと、いつもしてるよ?」
(ああ、いくらなんでも美咲さんにここまで言わせちゃダメだ……)
 どこかで冷静になりつつも、もう止まらない。鏡の中の美咲は、半分よだれをたらさんばかりに、熱にうかされたように口走るのであった。
「寂しい夜は、……オナってるに、決まってるでしょ? ……こんなに熟れた身体を、ほっとかれてさ。あぁっあぁっ――。少年はゲームの相手しか、してくれないしさぁ、ああんっはぁんっ」

 もうダメだ。指を花園の奥深くに出し入れするにつれて、ほとんど正常な思考ができなくなるほどの快感が頭のてっぺんまで連続的に立ち昇ってくる。ここまで女のソレがすごいとは、亮太には想像もできなかった。
 甘い喘ぎ声と、荒い息遣い、そして蜜壷のたてる湿り気ある粘着音が入り混じり、鏡の前の女はまるで悦楽のハーモニーを奏でているようであった。快感のすごさにへたり込んでしまいそうになるのを、なんとか意志の力をふりしぼって持ちこたえている。
 太ももの内側に違和感があった。なにかが股の皮膚の上を滴り流れていく。
(わあ、これって美咲さんのおもらし……)
「いやぁっ、おもらしじゃナイもん!おもらしじゃナイもん! ちょっと下の口からよだれ垂れただけだもんっ」
 瞳に涙をにじませながら、頭を左右に打ちふりつつ、美咲は叫ぶのであった。
「亮太のイジワルぅ、こんな恥ずかしい姿勢でオナニーさせてぇ。うあっ、うあっ。最後まで鏡で、あたしを、見てるつも、りぃ?」
 額に悩ましい皺をよせながら、懇願の表情でこちらをみる美咲の目と、亮太の目があった気がした――実際は皮のなかから亮太がのぞいているのだから奇妙な感覚だが。
 あっ、と思ったとき、突然床がぐにゃりとうごめき、どっとせり上がってくるような感じを味わった。その感覚に押し流され、一瞬身体が宙にういた気がした。
「!」
 あまりのことに息がつまり声もでない。
 快感の圧倒的な奔流のなかで、ふっ、と意識がホワイトアウトし、直後に暗闇におちた。

 気がつくと、まだ深い息をしながら、床にへたりこんでいる自分を発見した。髪が乱れ、顔にまとわりついてくる。身体中にうっすらと汗をかいているのがわかった。局部から腰のあたりに、まだ疼くような余韻が残っている。
 髪をかきあげ、鏡をみてみると、ほぼ放心状態のような美咲の顔があった。
(さすがに美咲さんのこんなあけっぴろげなところを見るのは、初めてだな……)
 たった今の、女の絶頂の信じられない悦楽にまだボーッとしながら、亮太はそんなことを考えていた。
「ふ……亮太、とうとうあたしをイカせたってわけね」
 鏡のなかの美咲の顔に満足そうな笑みがうかんだ。
 口元がゆるみ、濡れた目尻がさがり、やはりこれまで見たこともないような幸せそうな顔だった。
(ああ、このジュージツ感がイクってことなのか)
「……どう、少年。ちょっとは女がわかった?」
(わかった……気がする)
 そろそろ出演の時間がせまっている。亮太は美咲の身体で身づくろいをはじめた。コスプレ服をきて、今度は美咲がレレを演じているところを演じなければならない。シナリオの変更を考えている時間はない。ぶっつけ本番、アドリブで乗り切るしかないだろう。

==続く==


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