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天に願いを・外伝
あのコはやっぱりお騒がせ


作:赤目(REDEYE)



 横山を引き連れ、歩行者天国をスタスタ歩く雄二(中身=摩耶香)の姿。それを電柱の陰からそっと見つめる少女の姿があった。ちょっと古めかしいスタイルの和風お嬢様ルックに身を包んでいる。
「雄二くん……今日はなんだかとっても素敵だわ。いつもは学校であんなにボーッとしてるお間抜けさんなのに。どうしてかしら、忘れたはずのこの胸の疼きがまたよみがえってくるようよ」
 雄二の同級生、綾小路鞠子であった。本編では雄二に告白してこっ酷くフラれたり、魔物に為りかわられたりと、出番が少ない割りになかなか波乱万丈なメに遭っている。
「いけないわ、たまたま買い物の途中で見かけたからって、後をつけて監視しようだなんて。こんな変質者みたいな真似、お父様に知れたらきっと叱られる。……でも、でも、やっぱり駄目、足が勝手に動いてしまうの。嗚呼あたくしどうしたら」
 そんな独り言を呟きながら夢遊病者のようにフラフラ歩いていく綾小路を、周囲の人が引き気味に見やっている。
 綾小路は、中身が摩耶香のときの雄二に自分が惹かれていることを、もちろん知らない。


 ゲーセンに到着すると、摩耶香は横山をさそって早速バーチャルキックボクシングゲームをはじめた。対戦型体感ゲームになっており、ぐずぐずしていると相手が操るスポンジで出来たロボットアームとロボットフットに、ボコボコにされてしまう。きわめて男の子向けのゲームである。
 歓声を上げて何度もプレイする摩耶香を見ながら、雄二は、なるほどこれがしたかったのか、と納得した。荒っぽいゲームだけに、カップルや女の子同士で遊ぶ人はまずいない。これで遊びたいなら、やはり男の身体がほしいだろう。
 しかしそれならそうと、もうちょっと入れ替わりの方法が……とか、イッタイアナタニトッテアタシハナンナノ?、などと雄二がクサっていると、ゲームを終えた摩耶香がやってきた。
「あれー摩耶香ー、なにスネてんだよお前ー」
 言いながら肩に手を回してくる。
「ほっといてよ」
 手をハネのけてそっぽを向いた。“自分”に言い寄られても面白くもなんともない。しかも、いま雄二は摩耶香の身体なのだから、こんな魅惑的な姿で男に冷たくするのはなかなか自尊心(?)を満足させられて気持ちがいいのも事実だ。入れ替わらなければこんな気分は味わえなかったろう。
「雄二くん、悪かった、悪かったって。今度埋めあわせするから」
 摩耶香が雄二の耳元でささやく。
「コラコラ、二人ともあんまりおれの前でくっつくな。ただでさえこのゲーム暑くなるのに」
 と言いながら、買ってきた缶ジュースを横山が摩耶香に投げわたす。雄二には、ちゃんと手渡ししてくれた。
「あら。横山くんやさしいんだね」
「そりゃあ、女の子に投げるわけにはいかないもんな」
「ふーん」
 なかなか気が利くじゃないか横山、と感心する雄二であった。
 そんな二人の様子をみていた摩耶香が、イタズラっぽく笑いながらいった。
「なあ、あっちの相性診断ゲームをためしてみないか?」
 摩耶香が指差した先には、カップル用の最新型相性診断ゲームがあった。悪かったなどといいつつ、もう次のタクラミが閃いている摩耶香であった。
(あちゃぁ、なんだぁ、入れ替わってないときにやりたかったのに……)
 雄二は内心いまの状況をくやんだ。
 それはなかなかよく当たると評判のゲーム機で、TVや雑誌でも紹介されたことがある。
 カップルの名前・生年月日にはじまり、身長やら体重やら脈拍血圧血糖値やら五十m走タイムにいたるまでモロモロを入力し(女性向け体重秘匿モードあり)、さらに顔相やら手相やら貴方背骨曲がってませんか?指数まで、とにかくありとあらゆるデータを入力し、それで二人の相性を世界中の数千にわたる占い方法を参考に総合判断するらしい。
「摩耶香ぁ、まず横山とやってみろよ」
 雄二が位置につくと、摩耶香がいってきた。
「えー、横山くんとやるのぉ?」
 ちょっと困った顔で口を尖らせ、大いに不満を表明する雄二。
「先生、そいつぁはどうかご勘弁を。あっしはそこまでヤボじゃありませんぜ」
 横山が摩耶香の肩をおして、強引に位置につかせる。
「そうか? 面白いのに……」
 摩耶香はやや不満そうだったが、自分のデータを入力した。
「さあこれで準備完了だ」
 スタートボタンを押すと、七〇年代アニメに出てきたような、格子型ランプがパネルにずらり並んだ巨大コンピュータそっくりの筐体が、ブーンカチカチと古風な作動音を立てはじめた。どうでもいいが今の子はなんでそれがあるかわからんのじゃないかと思えるテープ型の補助記憶装置まで付いていて、それがカタカタと回転する。
 しばらくランプがランダムに忙しく明滅していたが、占いが終わったらしくそれが消え、紙テープライタがカタカタと鳴って、診断結果が印字されてきた。
「ええと、なになに……カップルの相性指数:60%だってよ」
 摩耶香がそれを読み上げた。
「『カップルとしては決して最悪の組み合わせではありませんが、しかしこれから交際を発展させるには、お互いかなりの努力が必要になるかもしれません。愛は障害があればあるだけ燃え上がるもの。互いの気持ちを理解して、もっと相手を思いやるようにすると良いでしょう』……だってよ」
 指数60%、しかもこの診断内容……かなりビミョーな空気が流れる。雄二は正直すこしショックをうけていた。すくなくとも80%まではいってほしかったのに。もっとも、雄二が摩耶香の顔をみると、結構この診断結果にウケているようであった。霊能力の強い摩耶香は、自分で行なった占術以外信じてないのかもしれない。
「じゃあ、今度は横山がやれよ」
「えーっ、やっぱりアッシですかい先生。いやー、でもほぼ初対面だしどうかな、みたいな」
 言いながらも、ちょっと嬉しそうに横山が位置につく。やがて雄二との診断結果が出た。パンパカパーン、とファンファーレが鳴る。
「わっ、なんだこの音。……どれどれ、お、相性指数:95%だって!?」
 横山がのけぞった。
「のええええ!?」
 なんでそうなるんだ――今度こそショックを受ける雄二。
「『世界中の占いに照らし合わせて、ほぼ理想的なカップルです。相思相愛の組み合わせで、恋愛だけでなく結婚しても理想的な家庭を築くことが出来、生涯に渡って添い遂げることができるでしょう。今後とも☆▲♪#%……』 あれっ、文字が乱れてて読めないや」
 おののく雄二とゴキゲンな横山の目が合った。キラァン、と微笑む横山。
「摩耶香さぁん、ボクタチすっごく相性がいいみたいだネ。雄二から乗り替えるときはいつでも言ってくださいな♪」
「あ、あ、あのねぇーーー!」
 な、なにが哀しくて男のお前とオレが――。情けなくて涙もでない雄二をよそに、摩耶香はひとり大ウケで腹を抱えて笑っている。
「雄二くんのバカバカ、摩耶香もう知らないから!」
 雄二が思わず叫んだ時。
 占いマシンが、カチカチカチと異常な音を立てはじめた。ランプがめちゃくちゃに明滅し、テープも目にも止まらぬ速さで回転している。ぶすぶす、という音がしたかと思うと、煙が上がりはじめた。
「どえっ……ちょっと……この機械、様子がおかしいんじゃない?」
 雄二が後ずさりながら言う。
「ああ……そのようだな……故障かな? はは」
 摩耶香も次第に身体を遠ざける。
 もちろん二人とも心当たりがあるのである。入れ替わった状態で、元の自分のデータを入力し、相性診断を仰いだのであるから。機械が混乱するのも無理はない。
「あれっ? 二人ともどうしたんだ?」
 まだ勝利の余韻に酔いしれている横山は異常に気付かない。
「ヤバイ、逃げろ」
 摩耶香と雄二は背をむけて駆けだした。
「おーい、いったいどこへ……ん?」
 機械を振り返った横山が初めて異常に気付く。
 その途端。
 ちゅどーん、と盛大な音がして、占いマシンは爆発した。
 あやういところで、雄二と摩耶香はゲーセンの外まで避難していた。
 エントランスからもうもうと上がる煙を尻目に、二人は顔を見合わせる。
「横山のことはあきらめよう」
「うん、横山くんはきっと夜空の星になったのよ」
 合掌する二人である。
 そこへ。
 彼方から、派手な土埃を巻き起こしつつ、歩行者天国の街路を駆け抜けてくる集団があった。
 その集団の先頭にいたのは――。
「あっ、イクちゃん!」
「イク、なにやってんのあの子!」
 二人は同時に叫んだ。すっかり本来の自分に戻ってしまっている。
「こんなに人がたくさんいるところで女装するなんて――無茶するにもほどがある。周囲の人間がうける重大な影響にまだ気付いていないのか!?」
「隣りにいるのはあゆみちゃんと華枝さん? あゆみちゃんも男装して……さてはあたしたちのデートをっ」
「マヤちゃん、そんなこと言っている場合じゃないよ……あの暴徒の集団、こっちへ向かってきてる」
「大変、逃げるのよ」
 その時、ドップラー効果を起こしながらイクの叫ぶ声が聞こえてきた。
「あっ、姉さん! 雄二さん! 助けてーーーっ。なんか次々ナンパされて、それでこんな大集団になっちゃって、止まらないのーーーっ」
 ドドドドドド。
 凄い音を立てながら迫りくる老若男女の集団から、雄二と摩耶香も逃げ出した。
「あっ、二人ともひどいよーーー! 見捨てないでーーーーー」
 集団暴走と逃避行は、いつ果てるともなく続いた。
「雄二くん……必死で逃げる姿も素敵だわ」
 そんな騒動を電柱の陰からひそかに見つめる綾小路。
 大変な一日になった。



「雄二くんも無事家まで帰りついたそうよ」
 摩耶香は電話を切って、イクに向き直った。
「まったく、あんな格好であたしたちのデートを妨害しようだなんて……あきれてものも言えないわ。あゆみちゃんに乗せられたとはいえ、天願教団の副代表としての立場をもう少しわきまえてほしいわね」
 そう言って弟のおでこを人差し指でトンとつつく。
 永かった一日も終わり、摩耶香は自室にイクを呼びつけていた。
「ごめんなさい、姉さん。でも、ぼく姉さんと雄二さんのことが……あの……心配で」
 イクはうなだれつつ顔を曇らせた。
「イクが心配するようなことは何もないよ……そう、今日は二回ほどキスしたかな。入れ替わるためにね」
「……」
 イクは言葉を失くした。
 そんなイクを、両肩に手をやり抱き寄せる摩耶香。
 額と額を、コツンとかち合わせる。
「あたしが一番大事に思っているのはイクよ……雄二くんには悪いけど。イクとあたしはこの世でたった二人きりの姉弟でしょ? 雄二くんとは、まだまだ友人以上恋人未満ってところよ、正直」
「う……うん」
 イクは少し照れながら、それでも目の前の摩耶香の瞳を見つめ返してくる。
「今日はいっしょにお風呂入ろう」
「えっ……で、でも、ぼくもうそんな……」
「あれえ? 雄二くんがあたしと入れ替わっているとき、いっしょにお風呂入っているって話じゃない? あたし、自分の裸だけイクに見られているのイヤだなぁ? イクがどこまで成長しか、こっちだって知りたいじゃない」
「ちょ、ちょっと、姉さん」
 イクは困った顔になって、自分から身体を離してしまう。
「それとも、雄二くんが入れ替わっているときは一緒に入れて、あたし自身のときは入れないっていうの?」
「そんなことはないけど……」
「逃げようたってダメよ。これは教団代表としての命令ですからね」
 本当に久しぶりの二人きりの入浴。摩耶香はイクの背中を流しつつ、「一人前に成長したわねえ」とつぶやくのであった。

 風呂上がり。パジャマに着替えたイクを、明日の教団公務のためのミーティングと称して、またもや自室に呼びつけた摩耶香は、渋るイクを自分のベッドの端に腰かけさせた。
「いま冷えたジュースを持ってきてあげるから、待ってて」
 そう言ってキッチンに立った摩耶香が、グラスに入れたジュースを用意して戻ってみると、イクはベッドにコロンと横たわって寝息を立てていた。
「あら……もう寝ちゃってる。ふふ、成長したと思ったけど、こんなところはやっぱり変わらないわね。お風呂で暖まるとすぐ寝ちゃうんだから」
 実は摩耶香の作戦勝ちであった。
 摩耶香は自分の分のグラスからひと口ジュースを飲むと、トレイをベッドの脇のサイドボードに置いて、イクに向き直った。風邪をひかないようその衣服を直すと、無垢なその頬に、ちいさくキッスをした。
 そうして自分もイクの隣りに身体を横たえると、毛布をかける。灯りを消した。
「おやすみ。あたしのひとりきりの弟」
 暗闇のなかでささやく。甘い平穏が、ふたりを包んだ。
 ――良かったね、イクちゃん。

==完==

■作者より
「天に願いを」シリーズはこれにて一応打ち止めです。ご愛読有難うございました。

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