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天に願いを・外伝
あのコはやっぱりお騒がせ


作:赤目(REDEYE)



 なんやかやでけっきょく摩耶香が水晶玉を譲りうけたころ――六叉町の歩行者天国のはずれをコソコソ物陰から物陰へと移動するふたりの子供がいた。ひとりはヤンキースの野球帽に半ズボン、もうひとりはチェックと水玉の乙女ちっくなオーガンドレスがよく似合っている。半ズボンの子もきりっとして可愛らしいのだが、ドレスの子といったら、くるくるカールの髪にカチューシャと花までつけて、女の子モード全開、ぶっちぎりのまぶしい光りかたであった。
「もー、こんな隠れながら歩く必要ってあるの? いつまで経っても進まないよ」
「仕方ないじゃない、華枝さんがTV中継してるんだもん。どこから撮られるかわからないから、オンミツ行動するしかないの」
「……で、なんでぼくはまた女装しているわけ?」
「変装よ、変装。普通の格好じゃイク様とあたしだって丸わかりでしょ。この格好で油断させ二人に近づいて、ぜったいデートを妨害してやるんだから。ふふふ、見てるがいいわ、アホ雄二。あたしのファーストキス奪ったくせに、よりによって摩耶香お姉さまとデートなんて百年早いことを思い知らせてあげる」
「ちょっ……あゆみちゃん眼がマジでコワイよ」
 つまりはイクと神官見習いあゆみの女装+男装カップルであった。
「だいたい、ここまでやる必要ってあるのかなぁ? 教団でおとなしく中継を見ていたって……」
「教団にいたらデートを妨害できません! イク様だって、初デートの話をきいてどんより深刻な顔していませんでしたっけ」
「ぼ、ぼくは別に……」
 戸惑いながら視線をそらすイクの眼を、嘘付けとばかりにイジワル顔のあゆみがのぞき込む。
「はーん?」
「ん……」
「ははーん?」
「んん……」
 顔をそむける度にあゆみが回り込んでのぞき込むので、イクはすぐに音をあげた。
「そ、そんなに思いっきり見ないでよ……これでもこの格好恥ずかしいのガマンしてるんだから」
 イクの困惑と含羞みをないまぜにした伏し目がちの表情や、思わず口許へちいさくこぶしを当てたキュートな仕草に、ハートのド真ん中を射ぬかれるあゆみ。
「い、いきなり……バッキューン☆」
「……は?」
 あゆみを見て小首をかしげる。
「ズ、ズ、ズッキューン☆」
「?」
「――へっへっへお嬢ちゃん、これからワテが良いところへ連れていってあげまひょ〜こっち来なはれ〜」
「キャッ、いやーっ」
 突然セクハラオヤジ化したあゆみがイクに抱きついてくる。
「いやよいやも好きのうち、勿体ぶらんでもええがな〜」
「あれぇお許しください旦那様……じゃ、ない! あゆみちゃん、ちょっとっ、気をたしかにってば。ぼくだよ、イクだって」
「いまから嬢ちゃんをワテが極楽へ……はっ」
 二〜三回腰を使ったところで唐突にあゆみは正気づいた。
「ハァハァ……あ……あたしとしたことが。イク様のイタイケな色気でカンペキに理性が」
「もうっ、なにバカなこといってんの」
「やっぱり女装はあぶなすぎ……(ドキドキ)見慣れてるはずなのに。――てゆうか、なんであたしの勝負服がそこまで似合うわけ!? 絶対信じられないし。このー、イク子ちゃん!」
「今度は逆ギレ? あゆ夫くん! 強引にこの服着させたくせに。……ま、まあ、とにかく先を急ごう。こんなところでグズグズしてると姉さんたちのデートが終わっちゃう」
 イクはあゆみの手をひいて、急ぎ足でその場を離れた。
 どうも先刻より粘着質のヤバげな視線が周囲から注がれているような感じがした。


 同じころ、雄二と摩耶香は壱郎たち四天王をひきつれてまだ骨董をさがして歩いていた。四天王が同行する効果は絶大で、人ごみがモーセの前の紅海のようにサアッと別れる。お陰でなんだか恥ずかしいやら申し訳ないやらの雄二であったが、摩耶香はアイテム捜しに夢中なせいか、全然気にしてないようだ。もっとも、荷物は四天王が引きうけてくれて助かったのだが。
「それにしても、マヤちゃんの名前がヤクザの間で通っているとは思わなかったなぁ」
「……ん? ああ、わたしの名は奴らには結構効くみたいよ。ヤクザって大嫌いだもん、見つけ次第迫害することにしてんの。特にさっきの膨棒組はね、ちょっと前ウチの教団支部にインネンをつけてきたことがあったんだよね。それで、カチンと来たから――」
 摩耶香は祓串を振りまわすマネをした。
「うわ、もしかしたら霊能力でやっちゃったの?……呪ったりして?」
「まさかぁ、呪うところまでいかないよ。あたしが本気で呪ったら大変なことになっちゃうよー」
 摩耶香はなぜかテレて掌で顔をパタパタやった。
「はあ、そうですか」
 内心たじたじとなる雄二。
「ちょっと、組員全員に毎日悪夢をみるようまじないをかけただけ。死ぬほどこわい夢ね。本当にそれだけだよ?」
 摩耶香は妖しげな微笑みをうかべた。なまじキレイ系の顔立ちだけにこんな時はソーゼツな凄みがある。
「――それで、どうなったの?」
「どうって、それで終わりよ。一週間も経たないうちに、頼むからやめてくれって組長が泣きついてきたわ。その場で手打ちしてウチの全面勝利。ヤクザのくせにぜーんぜん根性がない。まったく見かけ倒しの連中よ」
「……うう……マヤちゃん、確かにさっきの膨棒組のふるまいは論外だけどさ、普段はもうちょっとソフトに対応してもいいんじゃないかな? 壱郎さんたちがいるから心配ないかもしれないけれど、もし一般の信者の人がヤクザに仕返しされたらさ……」
「あれ? 雄二くんあたしに意見するつもり?」
 摩耶香に横目で睨まれたが、ここが踏んばりどころと必死でコラえる雄二。
「や、ま、そりゃあさ、オレは一応天願教団の顧問でしょ? だから……」
「ふーん」
 摩耶香は面白くなさそうな顔でソッポを向いてしまった。
「……それに、まあ新参の膨棒組はともかく、この街古参の鶴蔓組ってのもいてさ、そっちはまだ一応任侠の気風があるっていうか」
「ははーん、雄二くんのとこの八風神社の縁日ね。そっちの組が仕切っているもんね。でもそれってヤクザとの癒着じゃないの?」
「ううん……そうかなぁ。でももめごとがあっても警察ってなかなか動いてくれないんだよ」
「それはわかるけど、あたしは連中を必要悪として認めるつもりはないから。ヤクザはヤクザ、いくら格好いいことを言っても人様を苦しめてそれで自分たちはいい暮らしをしてるんだから」
「うーーん、そう言われちゃうと返す言葉がないんだけどね」
 雄二は気付かなかったが、このとき摩耶香は人ごみの中に誰かを見つけたらしく、一瞬悪戯っぽく笑った。
「……でも、ま、せっかく教団顧問からの意見だから、考えておいてもいいかな」
「ホント?」
「うん。その代わりまた今度――というか、ごく近いうちに、身体貸してくれたらね。ごくごく近いうちに」
 そう言いながら、壱郎を呼び寄せてなにか耳うちをする。
「? そりゃあ、まあ、なにか大事な用があるならオレはいいけど――ん?」
 突然、四天王に四隅をピタッと囲まれた。摩耶香もその小さな空間の中にいっしょになっている。こうなると巨大な壁が四方に出現したようなもので、人ごみの中に出現した密室である。
 雄二がなにか口にする前に、こちらをジッと見つめる摩耶香の瞳のとりこになった。
「雄二くん――」
 先程とはうって変わって、別人のように熟れたささやき声と潤む眼で、ヘアバンドをゆるりと外し、ほどいた髪をけだるげにかき上げる。
 なにか企むように目を伏せると、ふっ、と雄二にもたれかかってくる。雄二はどうしたって逆らえなかった。
 二人はキスしていた。

(ガーン)
 摩耶香と入れ替わった雄二は、その場で立ち尽して極限まで落ち込んだ。
(オレってもしかしてバカなんだろうか……まさかこんな賑やかな場所で……こんなテがあるなんて)
 摩耶香の演技力は凄すぎる。いや、やっぱり飛びぬけてキレイだからかもしれない。
 隣りの雄二の身体の方は、つまり摩耶香なのだが、勝ち誇った笑みをうかべていた。自分の顔ながら憎らしい。四天王はすでに包囲を解いていた。
 だが、そんな雄二を、さらなる衝撃が襲った。
「おーい、横山ぁーー!」
 摩耶香が手を振って呼んでいる。
 よ、横山!?
 ――その通りだった。横山がその声に気付いて、人ごみをかき分けてやってきた。
「ああ? 雄二、お前も来てたのかよ。出てくるときに電話したけどお前いなかったろ? あれっ、そっちはたしか摩耶香さんじゃないの。おぼえてますか、ボク横山どぇーす」
 このアホ、と思いながらソッポを向く雄二。
「なんだー、つれないなー。雄二、もしかしてデートだったか? こっちは古着を捜しにきたんだけど、お邪魔しちゃ悪いよな、は。は。は」
 横山が後ろに控える四天王を気にしながら引きつった笑い声をあげた。
「デート? オレたちそんな仲じゃねーよ、今日は摩耶香が骨董を買いたいっていうからさー、荷物持ちについてきただけ」
 やっぱりそういう扱いだったのか。本人の口から聞くと救いがない。底無し井戸に落ち込む雄二。
「で、後ろは摩耶香の付き人だよ。この人、宗教団体の教祖だから。――なあそれより、どうせだから今から三人でゲーセンいこうぜ、ゲーセン」
「まあ、おれはいいけど……摩耶香さん、ホント迷惑じゃないかな?」
 いますぐ消えろ、といってやりたかったが、横山も気を遣ってくれている。それに、よくよく考えればいま横山からみれば自分は摩耶香なのだった。
「うん……とっても大好きな雄二くんとのデートの途中だけど……雄二くんがそうしろっていうなら、摩耶香も黙ってついていきます。ぐっすん」
 身体をモジモジくねらせて、もちろん摩耶香の声と顔で、やるせなさげに言ってやった。
 カチーンと来ているのが傍目にも明白な摩耶香。
「ひゅーっ。先生、お連れ様がこんなことをおっしゃってますが、いかがいたしやしょう」
 横山が摩耶香に訊いている。
「構わない、行こうぜ」
「――おい待てよ、なに怒ってんだよ雄二。だいたいお前はいつから女の子にそんな……」
 慌てて横山が追いかけてゆく。しかたなく雄二もあとに続いた。摩耶香の(いまは雄二の)手に握られていたままだったヘアバンドでふたたび髪をまとめる。


「ええい、四天王は何をしておるのじゃ。ボディーガードに向かわせたのは良いが、摩耶香様の周りをあんなに囲んではこちらから何も見えないではないか」
 天願教団本部の講堂では、巨大スクリーンに映し出される映像を前に、轡馬がつぶやいていた。それは一緒に見ている満員の信者たちも同じ気持ちであったろう。
「?」
 すぐに四天王の影から出てきた摩耶香と雄二を目にして、何がなにやら――といった空気が講堂を包む。
「おおっと、これは」
 中継の華枝の声が響いた。
「――どうやら、わたしの勘ではありますが、お二人はいましがた……エッヘン……接吻をして心を入れ替えたのだと思われます」
 おお、という声とざわめきが広がる。
「こうなるとますます目が離せません。この賑やかな街角で強引に入れ替わった摩耶香様のお心やいかに。チャンネルはこのままで」


「――め、面目ない。許してくれ雄二さん」
 摩耶香と横山のあとを追いゲーセンに行く途中で、雄二の後ろからしずしずと付いてきた四天王の間から抑えた呼び声がした。とりあえず心は入れ替わってしまっているが、いま雄二は摩耶香の姿なので、横山の手前もありこちらだけに密着しているのだ。
「え?」
 雄二は振り向いた。
「なんだ三四郎」
 壱郎が尋ねる。
「先程の摩耶香様との、ヒメゴトだが。オレ、薄目を開けてしまった」
「貴様、見たというか」
「ああ」
 三四郎はうなだれた。そういえば極めて判りにくいが精悍な顔にうっすらと朱が差しているようだ。
「愚か者、摩耶香様に、目を閉じていろと言われたろう」
 激高した他の三人から、常人なら一撃で即死するようなきついツッコミがボカスカ入る。
 三四郎はボリボリ頭を掻いた。
「み、みなさん、まあまあ」
 あわてて雄二がとりなした。
「その位にしなさいって。ちょっとってばぁ。――もうっ、ゆ・る・し・て・あ・げ・る・か・ら」
 スカーフなびかせ腰をフリフリ、人差し指ゆらゆらの身振りをまじえた寒い演技に、四天王の視線が雄二へ集中した。動きが止まっている。
「……」
 雄二も照れてうなだれた。
「まったく三四郎は精神鍛錬が足りん。以後は気を付けよ」
 雄二をカンペキにスルーしつつ壱郎が言った。
(とほほ、女の子のフリは滑るとめっさつらいよ……。マヤちゃんの身体とこのファッションならかわいいと思うんだけどなぁ)
 とりあえずは仲裁できたので結果オーライと思うことした雄二であった。
 このあと四天王に椿事がおこった。
 大勢の子供たちに取り付かれ身動きできなくなってしまったのだ。
 きっかけは五歳児と目があった壱郎が、意外にチャーミングな微笑みをうかべて手を振ったことらしい。たちまち飛びついてきた子供がジャングルジムのように壱郎の巨体へ登って遊びはじめた。子供は「遊んでくれる人」を本能的に見分ける能力を持っているものだ。最初はあわてた子供の両親も、壱郎が意に介さず子供を上手に遊ばせるので、甘えることにしたらしい。こうなると、あとは周辺の子供たちがつぎつぎと壱郎やほかの三人にも群がり……といった具合である。体のいい動くアトラクションだった。
 今や四天王は殺気と闘気ばかりの非人間的な巨漢ではない。子供にもなつかれる優しさを持つようになったのは、教団にきて一連の事件を経験したせいもあるだろう。
 子供にワラワラとたかられて身動きとれなくなった壱郎が、雄二へ「摩耶香様によろしく」と言付けてきた。拳銃持ってるヤクザくらいは瞬殺する四天王も、ガキンチョにはかなわない。


 一方のイクとあゆみだが、まだ雄二たちを捜して歩いていた。
「あゆ夫くん、だんだん混雑してきたようですわね」
「そうだなイク子、こんなに人がいたんじゃ見つからないぞ」
 他人に聞かれるとまずいので、それぞれ女の子・男の子になりきることにした二人である。
 あゆみは微弱ながら霊能力があるが、周囲にこれだけ人がいては雑念も多く、それを使って摩耶香を捜すのは困難であった。
「あの……もしよろしければ二手に別れませんこと?」
「おお、それは良い考えだ。じゃあおれはあっちを捜してくるからな」
 あゆみは裏通りを覗きにいった。
 イクはため息をつきながら、行き交う人々を眺めた。
 今ごろ姉さんと雄二さんはどうしてるんだろう。やっぱり、また姉さんが強引にキスしたりしてるのかな……。イクはそんなつらい想像を首を左右にふって打ち消した。
 それにしても、かなり前から、まるで痛んだ水戸納豆のようないい加減しつこいネバネバ視線を周囲から感じるのは、気のせいだろうか。それもひとつやふたつじゃないような。
 イクはだんだん不安になってきた。あゆみは絶対バレないっていったけど、やっぱりこの女装はヘンなんじゃ――。というか、こんな格好で繁華街にひとりって、なんだか……。
「ネー、カノジョー」
「はいっ」
 背後から声をかけられたイクはびっくりして返事をしてしまった。
 振り返ると、ヒップホップな兄ちゃんが立っている。
「クッカァーッ、すんごい美少女じゃねーノ。いまヒトリでSHO? OREとその辺でお茶しようYO!」
「えっ?え?え?」
 口許に掌をあてて、あたふたするイク。
「ぼ、ぼ……じゃない、ア、アタシ、そんなこと……」
「おー、いいNE。そのフレェェッシュでチェキナウトな反応ォ。かなり年下だけど、安心していいZE、OREのストライクゾーンは広いからNA」
「あ、ちょっと待って、ヤです……ヤダぁ」
 強引に手を握られ、ひっぱられそうになった。
「貴様〜〜、薄汚い手を離せ〜〜!」
 いいながら、昔の高橋名人そっくりのデブがヒップホップ野郎に体当たりをかましてきた。たまらず跳ね飛ぶヒップホップ。(ちなみに高橋名人と聞いてピンときたあなたは、三十歳以上ですね?)
「ハァハァ……お、お嬢ちゃん大丈夫かな……わぁ、近くで見ると激萌え〜! どんなギャルゲーでもキミみたいな娘は見たことないよ〜! すごいよ、すごいよ、ボク普段はナンパなんかしないんだけど、キミを見てたら堪らなくなっちゃってさ、これからふたりでコスプレ喫茶へ行こうよ、きっとキミならアニキャラの衣装が似合うと思うんだけどそれから二人でフィギュア見て……」
 助けてくれた礼もこちらがいわないうちに喋りまくる高橋名人に、イクは口をパクパクしているしかなかった。
「去れ、醜いブタが!」
 叫びながらダークヴァイオレットのスリーピーススーツ姿の男が名人に飛び蹴りをかましてきた。悲鳴すらあげる間なく吹っ飛ぶ名人。
「姫君、お迎えに参上しました。フ。これから小生の運転手付きリムジンでホテルの最上階レストランへご招待申し上げましょう。高いところから愚民どもを見下ろしながら飲むワインの味は格別ですぞ。フ。その後はスイートルームでゆっくりと……チュッ」
 胸にバラまで差したとにかくスゴい格好の口髭男に手をとられ、そこへキスされるイク。
「な……。ちょっ、ちょっと」
「いやなに、恥ずかしがることはありません、小生が大人の恋愛ゲームのABCを手とり足とり……」
「クカァーッ、このセクハラオヤジ、何やってんDA!」
 いいながら復活したヒップホップが野獣のように飛びかかる。
「なんだお前!? よせ、はなせっ、この愚連隊が!」
「WAO、ズラがとれちまったZE! ――オッサン、ツルPIKA禿だったのKA。PU」
「この虫ケラが――! よ、よくもわたしの秘密を公衆の面前で」
「いつの間にかまた敵キャラが増えて! 二人とも消えろ〜、フライングボディアターック」
 言いながら高橋名人が二人をなぎ倒す。
 三つ巴の大喧嘩がはじまった。
「わっ、ちょっとっ、どうして……あの、ぼく、じゃなくてアタシ、そんな……」
 めちゃくちゃなドラム連打音をBGMにたちまちモクモク湧きあがる白い土煙に、あゆみが何ごとかと戻ってきた。
「あゆ夫くん、どうしよう」
 目にうっすらと涙を滲ませながらあゆみへしっかとすがりつくイク。
「ズ、ズッキューン☆」
「――? どえっ、ま、またなのっ? あゆ夫くん、しっかりっ」
 イクは半ズボンのあゆみの太腿を思い切りつねり上げた。
「ぎゃっ、イテテ……。――ん、なになにイク子の取りあいでケンカだって? そんなの決まってんだろ、おまえはおれのもん……じゃなかった、逃げるんだよ!」
 あゆみはイクの手を握って駆けだした。
「あっ、いとしき姫君が向こうへ」
「置いてかないでくれ〜」
「待てYo」
 三人が組んずほぐれつ土煙をあげたままの態勢で追いかけてきた。

==続く==

●作者から
 長くなったので分けました。次回で本当に終了です。


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