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天に願いを
14話(その1)
作:赤目(RED EYE)



第十四話
学園はお散歩日和(その一)

 雄二たちを乗せたワンボックスカーは快調に走り、すぐ山地を抜けてS市に入った。目指すは雄二の通っていた七森中学校。今は、雄二に成りすました摩耶香が通っている。ちょうど車が中学に着く頃に放課後になるはずであった。
 市内に入ると、水着姿の女が三人乗っているのを見てヤンキー車が絡んできたが、すぐに華枝が華麗なハンドルさばきで相手を追いこみ、コーナーで田んぼに突っ込ませた。中心部以外はまだ田畑がかなり残るS市である。
「フ。ド素人。このあたしにバトルを仕掛けるなんて命知らずにも程があるわ」
 ヤンキー達が慌てて車から這い出すのをバックミラーで見ながら、クールにそう言い切る華枝に、ボーゼンとする雄二、イク、あゆみ。教団からの脱出の時もそうだったが、運転の腕はかなり確かなものがあった。
「華枝さんて、もしかして昔は走り屋だったんですか?」
 助手席から雄二が訊いた。
「あらいやだ。ふふ、走り屋ってわけじゃないけどね。でもこう見えても昔はならしたものよ。国際A級ライセンスも持ってるしね」
「はぁ〜っ」
 ただただ驚くばかりの雄二たちであった。

 そうこうしているうちに、七森中学校に到着した。
 一旦校門の前を通り過ぎ、近くのホームセンターの駐車場に車を止めて、窓にカーテンを引き、フロントガラスに日よけシェードを広げると、車内は完全な密室になった。
 まさか水着で中学校に入り込むわけにもいかないので、着替えのためであった。
 華枝は前部座席と後部座席を倒して車内のスペースを広げると、荷物室にあったダンボール箱を開けた。
「一応、他校の制服を教団のお母さん方に声をかけて何着か用意しました。七森中学の服だと、部外者だとわかった場合却って怪しまれるしね。各自、自分に合うサイズをここから捜してください」
 華枝は箱から何着か制服を取り出した。
「へーっ、制服かぁ。なんか恥ずかしいような、嬉しいような」
 と言いながら、既にどの制服が「カワイイ」かウキウキと物色しはじめる雄二。女装への抵抗は既になく、この部分の意識は完全に女の子化しつつあった。
 あゆみと一緒になって、あれがいいこれがいいとキャイキャイはしゃぐ雄二を尻目に、イクが不審そうに訊いた。
「あの、華枝さん」
「はい、なんですかイク様」
「女子用の制服ばかりで、学生服がないようなんですが」
「イク様は、学生服を着たら、すぐに中学生じゃないってバレちゃいますよ。ですから、他のお母さん方と相談して……」
 華枝はちょっと言いにくそうに口篭った。
「あの、それってもしかして……」
「女装だ!」
 雄二とあゆみが同時に叫んだ。
「えっ。じょ、女装……。女装って、わたしがセーラー服やブレザーを――」
 イクは狭い車内であとずさった。
「そんなにドギマギしちゃって、イクちゃんカワイイ」
 すかさずからかう雄二。
「だ、駄目ですよう、女装なんて。そんなハレンチな。わたしは仮にも天願教団の指導者の弟で……」
「その教団指導者にイクちゃんは会いに来たんでしょう」
「で、でも、そんな。トーサクしてるし……。わたしだけ私服のままというのは?」
「ダメダメ。それじゃあ迷いこんだ小学生そのままだよ」
「じゃ、じゃあ、わたしはここで待っていようかな……なんて……」
「イク様、男なのに意外と意気地なしなんですねー。あんなに大見得切って教団を飛びだしてきたのに」
 あゆみがちょっと挑発的に言う。
「あうう……。わ、わかりました。当初からの作戦だし。だけど――ってうわぁ!」
 イクが承諾した途端、雄二とあゆみがイクに飛びかかった。
 海水パンツ一枚のイクに、キャーキャー言いながら無理やりセーラー服を着せていく。
 車内はくんずほぐれつの大乱戦になった。華枝は仕方ないなぁ、という顔でちょっと苦笑混じりに見守っている。
「や、やめてえー、せめてなるべく恥ずかしくない服を選ばせて――」
 イクの叫びもむなしく、思いっきり可愛いデザインのセーラー服を着せられてしまった。
「はい、リボンですよ」
 あゆみがイクの胸に黄色いリボンを付ける。
「イクちゃん、ウィッグ(かつら)をつけましょうね」
 雄二がイクの頭に後ろ髪だけの短いウィッグを付けた。
「オッケー、これで完成です」
 すでにイクは半泣き状態であった。
「ひ、ひどい……ぐすん」
「……」
 車内を沈黙が支配した。
「ど、どうしたんですか、皆さん」
 三人からの答えはない。
「や、やっぱり、わたしが女装すると変なのでは」
 それでも、三人は口を閉ざしていた。
「うう、脱ぎますね、これ」
 とイクが胸のリボンに手をかけようとした時。
 ようやく華枝が夢から醒めたように、首を左右に振りながらつぶやいた。
「……信じられない。イク様、なんてかわいいの。とびっきりの美少女だわ」
「えっ、そ、そんな」
「本当だよ。ここまで女装が似合うとは、不覚にも知らなかった。これならもっと早く……」
「ゆ、雄二さんっ」
「強力なライバル出現だわ……あたし、勝てるかな……」
「やめてよっ、あゆみちゃん」
「ホラ、イクちゃん鏡だよ。自分の姿を見てごらん」
 雄二が手鏡を差し出した。
 が、イクは恥ずかしがって顔をそむける。
「だめだめ、そんなことじゃ。今からしばらくの間、イクちゃんは女の子なんだから。格好だけじゃなくて、心もそうならなくちゃ。身だしなみは女の子の基本でしょ」
 雄二は無理やりイクの顔の前に鏡を持っていった。
「え……。こ、これがわたし……?」
「って、わーっ。紛らわしい台詞を勝手に吹き替えないでくださぁい!」
 わかりにくいが、「これがわたし?」と物真似で言ったのは雄二であった。
「とにかくイクちゃん、そんな男の子のままの物腰じゃ駄目だよ」
「そ、そんなこと言っても」
「イクちゃんが男だってバレたら、今回の計画は台無しになっちゃうでしょう。摩耶香さんに会うためには仕方ないんだから、ちゃんと演技しなくちゃ」
「はうう……。わ、わかりました」
 車内では雄二とあゆみによるインスタント女の子講座が始まった。雄二だってこの前女の子になったばかりなので怪しいものだったが、却って同じ“初心者”なので良いアドバイスも出た。
「さあさあ、皆さん。それくらいにして早く摩耶香様に会いにいかないと、家に帰ってしまいますよ」
 華枝が促すと、雄二とあゆみも慌ててイクと同じ学校の制服を捜して着込んだ。
 その間に華枝は車を駐車場から出し、七森中学校の校門近くに移動する。
 三人は最後に互いの服装をチェックして、準備完了であった。
「そういえば華枝さんは来ないんですか?」
 雄二が訊く。
「私は駄目ですよ。いくらなんでもセーラー服なんか着たら、ただのコスプレになっちゃう」
 華枝は自分のその姿を想像したのか、ぷっと吹いた。
「そうかなぁ、華枝さんなら似合いそうな気もするんだけど」
「雄二くん、大人をからかっちゃダメって言ったでしょ。さもないとまたキ……」
「わーっわーっ、わかりましたごめんなさい」
 ウロたえる雄二。華枝とキスしたことは、あゆみにはまだバレていない。
「じゃあ、行ってきます」
 三人は車を降りた。
「私は車で待機してますからね。何かあったら携帯で連絡して」
 携帯はイクが持つことにした。

 三人を降ろして車を元の駐車場に移動させると、華枝はエンジンを切ってドライバーシートを倒し、車内を片付け始めた。ふと、散らかっていたセーラー服を手にとって、自分の上半身に当ててみる。バックミラーに映った姿を見て、首を振った。
「こりゃ、ホントに場末のフーゾク嬢だわ」
 ため息をつくと、片付けを続けた。

==続く==

●次回予告 女装イクに学園の反応は?


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